2024年12月2日 できない子には有害な「成功例」

中学生

今、本や雑誌でも、テレビでもインターネットでもいいが、世間に多く流布する情報は「成功例」が多い。書店などがわかりやすいかもしれないが、ビジネスなどで「こうやって成功した」という本は非常に多い。

まあ、事情は分かる。そもそも事業に失敗した人に誰が「ビジネス本出しませんか?」なんて声をかけるものか。

ただ、私からすると、もっと知りたいあるいは知るべきなのは「失敗例」だ。こうやったから失敗した、というような具体的なポイントの話でも、本当にうまくいかなくなるまでの過程を聞ける場でもいい。

勉強に寄せよう。

私が受験生だった当時から出版されている、「東大理Ⅲ」という本がある。文字通り東京大学の理科Ⅲ類(医学部医学科)という、日本で最も高偏差値の大学、学部に合格した人へのアンケート、インタビューが載せられている本だ。

受験というカテゴリーで言うなら、これがおそらくわかりやすい「成功本」だといってよかろう。もちろん、受験時の反省点や浪人時の話なども書かれているが、結果として最終的に合格した人たちの話を載せた本だから、成功本と言って差支えはなかろう。

ただ、ここで答えてくれた学生さんの言うようにすれば東大理Ⅲに受かるのか、と言えばもちろんそんなことはない。皆さん、通っていた塾や予備校、使っていた参考書、果ては1日の勉強時間に至るまでバラバラだ。共通しているのは、彼ら彼女らが受験に成功した、という事実だけだ。どれが正解なんて初めからないし、当然間違いもないのが、個人の人生及び人生経験だ。

いよいよ本題。この「成功例」はできない子には毒だ。

どういうことかと言うと、できない子は他人の「成功例」を実に都合よく解釈する。もっと具体的に言うと、量が少なくて成功した、楽して(本人がどう思ったかは別)成功した、と思われる成功例だけ聞き入れて、自分に当てはめようとするからだ。

YouTuberが楽しくお金を稼いでそうに見えるから、僕もYouTuberになりたいと考える小児と選ぶところはない。小児であれば笑ってあるいは叱っていけばいいが、中高生になるとそうはいくまい。

よくやり玉にあがるのが「暗記」というやつ。東大受験生であろうがなんであろうが、暗記が好きでたまらない人と言うのはまあいないだろう。そこに「暗記に頼らず成功した」なんて聞けば、「俺もそう思った(笑)。暗記しなくてもいけるよね」と浅はかにも考えてしまう。

この「暗記に頼らない」勉強は一見楽そう、苦労が減りそうに思うかもしれないが、実際は「暗記はしない」イコール「頭で理屈で理解する」ことの方を求めてくる。単純暗記よりよほど頭にストレスはかかるし、身につくかどうかが不確実、でももし身につけば暗記より確実に理解でき、時間も早く済み、何より楽しい。ギャンブルにある種似たようなものなのだ。

ただ、当のできない子はそこまで深慮することはない。「量が少ない、楽」以外の尺度は(少なくとも勉強に限っては)持っていない。そこにきて、成功例は「楽に」うまくいった、と勘違いさせやすい。楽をしたいできない子には有害だというわけだ。

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