ある日の授業中。
中学生の一人が問題集を目の前にして手を止めている。どうやら解き方が思いつかず苦戦している様子である。
私はすぐに手は貸さない。一生懸命悩んでいる時間、脳内の細胞は活性化し、記憶を呼び起こそう、考え方を整理しようとフル稼働中である。勉強ができるようになる瞬間というのはこの瞬間である。先生に解き方を教わっている時間ではない。ただどうやらいくら悩んでも答えは出ない様子。あまり時間をかけすぎるのも何なので声をかける。
「ヒントあげようか?」
生徒は全力で拒否するような目を向ける。自力で何とかしたいのだ。オッサンの助けなんかいらん!そんな目である。
さすがにいつまでもそのままではいけないので「もうダメ」ということでヒントを示すことになる。そのヒントで何かがつながったのだろう、「あ!」という顔になる。声が出ることもある。
そう、そういう瞬間の積み重ねが成績につながる。実際、こういう経験をした問題のとき、時期を空けて解き直させてもしっかり答えを導いてくれる。
答えが出ない問題に苦戦する瞬間は勉強していくうえで避けて通れない。その時に思考停止状態になって「あとで説明してもらえばいいや」の目をしている生徒と、今回お話しした生徒はのちに大きな差がつく。それは受験ではないかもしれない。大人になった後の仕事の現場かもしれない。でも確実に埋められない差になって表れる。
今はきっと苦しいはず。でもその苦しさに耐えられる力と自分で何とかしようとする力は、ほかの人にはない武器になる。頑張ってほしい。