今回は、前回の部活動に引き続き、公立中学に進学する際に考えておくべきヒントその2として、「兵庫県尼崎市という地域」についてお話しします。
といっても、昔からよく言われる「尼崎の治安が」とか「学力レベルが」といったお話ではありません。数字やデータ等をベースに他地域と比較し、注意すべき点、特に公立高校進学を考える際のポイントをお話しできればと思っています。
公立高校のレベル帯・偏差値帯
尼崎市は、第二学区に位置し、同じ学区内には西宮、伊丹、川西、宝塚、三田などが入ります。
偏差値、進学実績のトップは市立西宮高校、それに次いで尼崎稲園高校や宝塚北高校などが続きます。
以前、第二学区や尼崎市の公立高校偏差値についてお話ししたことがあります。その中で尼崎市内の公立高校の偏差値帯をお見せしましたが、稲園高校と2番手の尼崎北高校の間では10近く偏差値に差が出ます。さらにいうと、それ以外の公立高校の偏差値は43~50ちょっとの間に固まって存在しています。他地域や他府県を見てみるとわかりやすいのですが、大体偏差値は2~3刻みで階層が分かれています。
他地域と比較してみましょう。例えば第一学区(神戸市・芦屋市など)の場合、偏差値帯を見ると長田/神戸(70前後)→兵庫/星稜(66前後)→御影/葺合(63前後)→・・・といった具合にレベル帯がきれいに色分けされやすい傾向があります。第二学区ですと、例えば西宮市の場合、市立西宮(66)→西宮東(63)→県立西宮(60)→鳴尾(56)→・・・といった具合に分かれていきます。尼崎市内の場合もある程度の色分けは可能ですが、西宮と異なり、それぞれの高校間の偏差値の開き方がいびつになっているのが特徴です。前述のように団子になっていて、それがすべて低偏差値帯(50前後からそれ以下)の中で固まっている(偏差値が1刻みあるいは同じで並んでいる)のです。
なぜそうなっているのか、詳しい事情は分かりませんが、地域間や高校間の格差がないようにしてきた教育行政の名残なのかもしれません。かつて校区で進学先を決めてしまう「兵庫方式」を導入していましたからね。その後にそれを脱却して高校ごとの層がうまく分かれていった西宮や神戸、それができなかった尼崎、という感じがします。
学力上位層の行き場が少ない尼崎のいびつさ
こうなると、尼崎市では公立の学力上位層の選択肢が狭くなってしまいます。稲園を目指せばいいじゃないか、と思うかもしれませんが、大事なポイントは稲園高校の位置づけです。
稲園高校は尼崎の最北端、伊丹市との境目当たりの地域にあります。しかも、公立高校の中では珍しく駅前(JR猪名寺)に立地しています。加えて尼崎市は平地しかないので自転車でどこでも行けてしまう環境でもあります。そのせいで、この高校は伊丹市や川西市の上位層が狙って受験することが多いのです。その証拠に、過去には稲園高校に進学した生徒が最も多かったのが伊丹市の中学校だった年もあるくらいです。この2市には、稲園高校に匹敵する高校が存在しないこともこの傾向に拍車をかけています(この2市は人口が尼崎の半分かそれ以下です)。
問題は、この時に稲園高校以外の選択肢がとりにくい点です。具体的に言うと2番手の高校、例えば市立西宮高校に対する西宮東高校や県立西宮高校のような存在が尼崎にはないのです。
尼崎市内で公立高校進学を考える際に取られやすい選択肢に「稲園が無理なら尼北」という考え方があります。しかし、実際の進路実績などを見てみるとわかると思いますが、特に国公立大への進学実績の差は偏差値以上です。稲園高校以外の進路を考えると、同レベルの実績をあげている大阪などの私立高校か、西宮市などの他市の公立高校を選択肢に加えざるを得なくなるのです。
最後に
いずれ独立した話題でお話ししようと思いますが、高校入試というのは、中学受験をしていないお子さんにとって初めての「学力レベルによる階層分け」がされる機会になります。
その時に、尼崎市という場所は地理的、構造的に不利な環境に置かれているということは頭の片隅に置いておいた方がいいと思います。階層分けは決して差別などではありません。市内全域平等に低い偏差値帯に高校が固まっているという方がどう考えても不幸です。
「うちの子にはどういう道があるか」を考える際、高校の進学先だけを目標に据えると難しいのが、わが愛する尼崎です。だからこそ、生徒の皆さんや親御さんと一生懸命対話していきたいと考えています。